異常気象と季節感
またしばらくご無沙汰してしまいましたが、結局、その後こちらの冬らしい厳しい冷え込みはほとんどなく、雪もほとんど降らず、2月下旬にプラス8℃などというような異常気象が続いた後、ついに3月が始まってしまいました。
いつも、TVのニュースで「3月1日、春の最初の日のニュースをお伝えします」とアナウンサーが言うのを聞くと、私は微妙な違和感を覚えるのですが、当地の友人にそれを話すと、「別に誰も、昨日まで冬で今日から春になったとか思ってるわけじゃないよ」との反応。まあ、日本のメディアが、その年の具体的な天候に関係なく、とにかく一応立春だとか啓蟄だとかを話題にしてしまうのと同じことかもしれません…と書いてからふと自信がなくなりましたが、今でも、そうなんでしょうか? なにせ、日本の新聞やTVにほとんど触れない生活が長いもので。
話はどんどん脱線しますが、こう温暖化が進んでくると、日本で俳句を作ってる人たちは、季語の感覚が狂って困るんじゃないでしょうか。それはともかく、そういう雑談をしながら友人と歩いていると、小雨が細かい霰に変わり、いっとき激しく降りそそいだ後で、雲の切れ間から青空が見えてきました。気温はプラス6℃くらい。こういう、気温を示す電光掲示板が街中のあちこちにあるのは、ほかの国でも見られる現象でしょうか。
めまぐるしく変化する政治情勢
この間、私は本来の職務であるNPOの仕事で忙しくしていたのですが、そのあいまにTVのニュースで見たり、新聞雑誌で読んだりするだけでも、やたらあれこれ政治情勢が動き、とても細部までは把握していません。順不同で摘記しますと、
@ 世界貿易機構への加入
2月5日、世界貿易機構へのウクライナの加入が、同機構の総評議会で承認されました。
A 機能停止状態が続くウクライナ最高会議
しかし、それを批准すべきウクライナ最高会議は、NATO加盟関連の法案審議を拒否する野党による議長席の占拠で、事実上機能しない状態が延々と続いています。
野党がこのような手段に訴えている形式上の理由は、NATO加盟に向けてのアクション・プラン[直訳]参加国にウクライナを加えよとの要請書に、大統領・首相ばかりでなく最高会議議長ヤツェニューク氏もサインをしたことへの抗議と、NATO加盟に向けての具体的な動きに先立って、国民投票により民意を問うべし、との要求です。
後者について、ユシェンコ大統領が「NATO加盟の是非に関する認識が行き届いていない現時点でそのような国民投票を行うのは、『火星に生命は存在するか』という問題について国民投票を行うのと同じ」という、頭の痛くなるような発言をしていたのをTVニュースで見ましたが、本人の意図と関係なくこの発言が暗に意味するところを考えれば、
a .国民は、NATO加盟の是非に関して自ら熟考し判断できるような知識を持っていない。
b .現在国民投票を行えば、加盟反対の意見表明をする有権者の方が多いだろう。
と大統領が判断している、ということになるでしょう。
後者はともかく、前者のような判断を大統領がしているのであれば、もう少し責任を持って国民に己の政策とその拠り所を語るべきだと思うのですが。
B 野党による議事妨害の思惑
しかし、野党によるこのような最高会議の議事妨害は、現与党の政局運営能力の不足を国民に見せつけ、またしても同会議の解散→選挙を行うことで、政権与党に返り咲こうとする「地域党」の画策である、という説もあります。
C バローガ大統領府長官の「我らのウクライナ+国民防衛」離脱
一方、大統領支持派閥「我らのウクライナ+国民防衛」所属だった大統領府長官バローガ氏は、同派閥所属の最高会議議員数名とともに同派閥を離脱。
彼らがやはり大統領支持の新政党を設立するのでは、という噂がもっぱらですが、これは、首相ティモシェンコ氏の「ティモシェンコ・ブロック」と「我らのウクライナ…」の連立内閣に代わって、バローガ氏ら大統領側近の新政党と「地域党」の新連立内閣を成立させ、次期大統領選でのユシェンコ氏の最大のライヴァルと目されるティモシェンコ氏を現政権から排除する、というシナリオに基く布石だといわれています。
D ガス供給の問題
そしてまたもこの時期、ロシアとの間にガス供給の問題が発生。
ロシアのガスプロム社とウクライナのナフトガス社との間に不透明きわまりない仲介者として存在するロスウクルエネルゴ社を消滅させ、直接取引を成立させるとティモシェンコ氏が宣言していたのに対し、2月12日のロシア・ウクライナ2国の大統領会談の結果得られた合意では、同社を解消した場合にも新たな仲介者登場の可能性を排除しないとのロシア側の提案を残す形となっており、しかもウクライナ国内で生産されるガスの売買にロシア資本の会社が介入する可能性についても触れられている由。
このユシェンコ・プーチン会談とは別個にティモシェンコ・プーチン会談が長時間行われたにもかかわらず、こちらの会談では合意は得られず、その後ガスプロム社はガスに関するウクライナの負債支払いを要求、ウクライナから一定額の振込みが行われたものの、まだ不足として、ロシア側は3月3日から対ウクライナガス供給量の25%をカットするとの宣告をしています。ティモシェンコ氏は、そのような事態の可能性を否定し、動ずるなと国民に呼びかけてますが。
E 疑惑
また、前ヤヌコーヴィチ内閣の運輸大臣ルチコフスキイ氏が、同職にあった当時公費で飛行機をチャーターし、妙齢の女性を伴ってパリに遊んだ等の疑惑で逮捕されました。
一方で、上記バローガ氏とその親族に関し、公有地の不正な払い下げの疑惑もささやかれており、共産党議員によって、この件の調査委員会を最高会議内に組織するべしとの申請が行われています。
F 政界のスキャンダル
その他、まだまだニュースはあるのですが、読者の方々の頭もだいぶ痛くなってきたのではないかと思うので、もうひとつだけ比較的最近の政界スキャンダルを書きます。
国家保安防衛会議(名前だけ聞くと、国防問題を審議する機関かと思われそうですが、閣僚及び大統領府、州行政長などの要職者が集まり、国にとって重要な問題を検討する会議のようです)の席で、内務大臣ルツェンコ氏がキエフ市長チェルノヴェツキイ氏を殴打した、1月18日の事件についてです。以下、週刊誌『通信員』のコラムから引用します。
「・・・チェルノヴェツキイ氏は、ルツェンコ氏が時価数百万ドルに及ぶキエフ市の一角を脅し取ろうとした、と非難した。『土地をよこさなければ、おまえの息子を逮捕するぞ』と言われた、というのである。このような告発をされるに及んで、ルツェンコ氏はもはや自制を失った。[中略]チェルノヴェツキイ氏本人の話を聞くことにしよう。『[ルツェンコは]一座の中から飛び出して、私の、一般に男性の誇りとされている箇所を2度殴った』。市長は頭のことを言っているのだ、とまずは考えるべきであろう。
しかし、彼の主たる誇りの宿る場所はそこではないことが追って明らかとなる。『それに続いて、彼は拳骨で私の顔を殴った』。/ルツェンコ氏の説くところは、その細部において異なるものではあるが、細部の一つが示唆することによって、キエフ市長の言葉は事実からさほどかけ離れてはいるわけではないと考えられる。[中略]20日のTV番組で、内務大臣は、チェルノヴェツキイJr.攻撃の嫌疑を晴らそうとして次のような発言をした。
『キエフ市長選の前、警察と私の配下のヤレム将軍に、チェルノヴェツキイの息子を数日「拘禁」しておけという圧力がかけられたことは確かにあった。それを政治的な策略に利用しようというのでね』。この後、この不法な行為に手を染めることを彼が拒否した旨説明があった。/もしユーリイ・ルツェンコ氏がジャッキー・スミスという名前で、[イギリスの]スコットランド・ヤードに勤務しており、BBC放送でこのような発言をしたとすれば、[イギリスの]上院議員たちはそろって鬘を脱ぎ捨て、テムズ河に身を投げていただろう」
コラムの筆者パスホヴェール氏は、続いて、ウクライナの某最高会議議員がある汚職未遂事件について公然と口にしながらも、彼に贈賄を申し出た人物の名を明かそうとしなかった例(「長年にわたって、我々の間には純粋に人間的な関係が築かれているのでね。贈賄の申し出があったことは言えるが、我々の関係をこわしたくないから、名前までは言えないよ」)を引き、要するに仲間うちのエチケット(日本なら「仁義」というところでしょうか)を守らなかったのが、チェルノヴェツキイ氏の罪であった、としています。
市有地売却をめぐる問題
ちなみに、昨年の最高会議選挙の直後、国民の関心が選挙結果の発表に集中していたまさにその時、キエフ市議会で1日のうちに驚くべき数の市有地の売却に関する承認が行われたのですが、それらの価格は非現実的に安くなっており、入札に不正があったとの疑いが各種メディアで取り上げられたものの、その後どうなったのかはうやむやのままです。最高検察庁が、市長から多くの市有地の提供を受けている、との某議員の証言も週刊誌で読みましたが。
上記コラムの結びは、「ルツェンコ氏にとって、チェルノヴェツキイSr.を『拘禁』する理由は、たとえ上からの指示がなかったとしても十二分にあるだろう。価格が最低100億ドルに上る首都の土地の不法な分配は、終身懲役2回分をもってしても償えない罪に値する。しかし、ウクライナ人の心の広さは、そのようなことを許さないのである。エチケットはエチケットとして守らなければならない。『我々の関係をこわしたくないから』。だが、顔もしくはそれより低く位置する身体の箇所に手を出してはならない、ということについては、ウクライナの政界の規律にはひとことも触れられていないのだ」というもの。
ちなみに、この殴打事件については、大統領がウクライナ最高検察庁に審議を委ね、検察関係者の記者会見の席で、「捜査のため現場再現も行いますが・・・もちろん、ご本人たちに再現してもらうのでなく、『スタントマン』を用います」との発言を行った検事本人と記者たちの笑いが、TVニュースの画面に響いていました。「笑うしかない」という気持ちもわからないではありませんが、しかし、やっぱり、笑ってる場合じゃないんじゃないでしょうか。
しばらく続いた「病欠」の後、職場に復帰したチェルノヴェツキイ氏自身は、記者会見の席でこの事件に触れられた折、ルツェンコ氏を「許す」と発言、心の広いところを見せていました。
では今回はこのへんで。次回は、もう少し、楽しい話題が提供できればと思いますが…。
(2008年3月2日)
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