No.51
竹内高明(キエフ在住)

福島原発事故・チェルノブイリ原発事故25周年
 前回の通信をお送りしてから大変時間が経ってしまい、申し訳ありません。日本での震災と福島原発事故発生、またチェルノブイリ原発事故の25周年にあたって、日本からウクライナを訪れる人が増え、その対応で夏まではとにかく忙しくしていました。

また9月から10月にかけては1ヶ月ほど、「チェルノブイリ救援・中部」の仕事でジトーミル州北部のチェルノブイリ汚染地域の農村に滞在、バイオガス製造装置関連の工事の手伝いと通訳をしました。この間ウクライナでもあれこれの出来事があったわけですが、補い始めるとまたも時間がかかってしまいそうなので、思い切って端折ることにします。あしからず。

ガス価格問題の行方
 前首相ティモシェンコ氏に対し、「ウクライナの国益を損うガス価格協定をロシアと結んだ」旨で起こされた訴訟の結果、彼女が禁錮7年の実刑判決を受け、さらに他の横領容疑でも捜査が行われており、これが現政権の政治的な意図によるものとして欧米で批判されていることは日本でも報道された通りです。それに伴い、EUとウクライナの間で締結されようとしている連合協定の文面にも、将来のウクライナのEUへの加盟に関する言及を含まないという可能性が出てきた由。

一方、11月に入り、ロシアからウクライナの輸入するガスの価格についてウ・露間の交渉が行われ、一部メディアでは大幅な値下げ(今年第3四半期で千立米あたり354ドルのところ、同230ドルに?)で合意が成立したと書かれましたが、ウクライナ政府は未だ正式のコメントを控えています。この値下げによりウクライナの国営ガス会社ナフトガスの赤字が削減され、現在停止されているIMFの対ウクライナ融資が再開される可能性も指摘されていますが、引き換えにウクライナはナフトガス社の民営化に際しロシア企業に特恵条件を与えるのではとの推測もあります。

社会保障削減に対する激しい抗議行動
 9月下旬から、チェルノブイリ被災者やアフガン帰還兵などの社会保障を削減するという法案が提出されたことに対し、最高会議前などで激しい直接抗議行動が続き、政府は法改正を見合わせていましたが、ウクライナ東部のドネツクでは11月半ば、チェルノブイリの事故処理作業者らが法に定められた金額での年金支払いとアザロフ首相との面談を要求、年金基金州支部前で無期限ハンガーストライキに入り、他州の事故処理作業者もハンストに加わっていました。

ドネツク市議会は、「テロ行為の危険性」があるとしてこの抗議行動を禁止する訴訟を起こしましたが、事故処理作業者たちは、テント村が撤去される場合にはいかなる手段も辞さないとし、集団焼身自殺の可能性にまで言及。法律では、各カテゴリーのチェルノブイリ被災者の老齢年金額につき一定の補填を行うことが定められているのですが、国は予算不足を理由にその支払いを行っていないケースが多く、最近でもキエフ市内の被災者が、法に基づく支払いを求めて年金基金事務所で交渉中に心筋梗塞を起こし、亡くなったという話を聞いています。

さらに強まる政府への対決姿勢
 そしてついに27日夜、ドネツクでハンスト中のテントが非常事態省職員らにより強制撤去され、65(とする報道と70歳とする報道あり)の男性が心臓発作?(死因は調査中)で亡くなるという事件がありました。29日、キエフでもこれに抗議して数千人規模の抗議行動が行われており、ドネツクでは撤去されたテントに代わって新たなテントが設置されたそうで、事故処理作業者らの政府との対決姿勢はさらに強まるものと思われます。

新婚のふたりが見るテレビ番組
 ところで、私事ですが最近結婚いたしました。妻はウクライナ人で会社の秘書をしており、彼女が仕事から帰ってくると一緒に食材の買出しをし、夕食を一緒に作って、食べながらTV番組や映画を観たりするのですが、週一度の番組で、二家族(夫婦と子どもの核家族がほとんど)の妻たちが一週間だけ入れ替わって過ごすというものがありました。

事前に行き先の家庭については何も知らされないという条件があり、相手側の家に着いてから、当該家族の妻の残した指示書(家族の構成、家計、どの時間帯をどう過ごすかなど)を見て何日かはその代わりを務め、その後は自分流に新しいルールを導入することも可、という筋書です。

それぞれの家庭の夫は、未知の女性(TVクルー)を自宅に受け入れるにあたって、当然最善を尽くしていると思われ、画面に見られる生活の様子が実際の日常と同じかどうかは、だいぶ割り引いて考えるべきでしょう。

しかし毎回いろいろな事情の家庭が登場し、車椅子の障害者の夫、イタリア人の夫、ダウン症の子ども、薬物依存症を克服した夫妻などの暮らしが描かれ、二家族の住む場所が遠く離れた地方だったり(ウクライナ東部のハリキウと西部のリヴィウなど)、都会に住む家族と辺鄙な農村の家族だったりして、生活習慣と文化の相違を乗り越える女性らの努力が時に真剣に、時にユーモラスに描かれていますが、視聴者に対してけっこう啓蒙的な効果もあるのではないかと思います・・・・・・といえば大袈裟かもしれませんが。入れ替わるのがなぜ妻であって夫でないのかについては、フェミニズムの見地から必ずや批判もあるはずですが、けっこう人気番組なのか、それなりに長く続いています。

「家」の開かれ方
 まあ、日本でこういう番組を作るのは、難しいでしょうね。ウクライナだと、初めての客を自宅に招く時、まずアパートや家の部屋すべてを案内することもよくあり(もちろん、事前に入念な掃除が行われていると思われます)、もともと「家」の開かれ方が違うような気がします。ウクライナでも独りが好き、あるいはよその人をうちに入れたくないという性格の人はいるわけで、安易な一般化は避けなければなりませんが。(20111129)


デザイン&入力:Ryuichi Shimizu /Yoshiko Iwaya/Yumi Kusuyama /Hiroshi Hamasaki/Kayoko Ikeda/Takumi Kohei/Yui Kuwahara/Chihiro Fujishima■監修:Hiroshi Dewa

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