No.32




1月、2月の気温

こちらでは、私が「チェルノブイリ救援・中部」代表団とジトーミル州に行っていた1月下旬に気温が零下に下がり、雪が積もりました。その後マイナス5℃とか7℃とかの気温が続いていたのですが、25日にはプラス2℃にまで上がり、その後また零下に下がって、2月下旬になりやっとマイナス10℃以下と、こちらの冬らしい気候になりました。歩道には黒くよごれた根雪が硬くこびりついています。

公共料金値上げの根拠をめぐって

キエフ市長は公共料金の値上げを敢行しましたが、その正当性については法廷で争われ、2月初めだったかの記者会見で、市長は「料金は徐々に下げ、元の水準に戻す」と発言しました。

28日、市議会で、新たな料金値上げ幅についての決議が採択され、それによれば、暖房と温水の料金は2倍、ふつうの水と下水の使用量は1.8倍、公共の家賃は1.9倍になるということです。すでに支払われた12月・1月分の料金については、31日までに清算をするというのですが......2月分の料金から、「余分な」支払い分が差し引かれるということでしょうか?

市議会で設置された、料金値上げの経済的根拠の調査委員会の委員長クリュシ氏によれば、「この決定は調査委員会・議会野党・与党の妥協の産物にすぎず、公営住宅運営システムの改革なくしては、料金値上げそのものは何の結果も生まない」由。

世論調査では、料金を従来分しか払わないと意思表示している人も多いのですが、納得できる値上げの根拠がついに示されなかったことを思えば、それなりにうべなえる反応といえるでしょう。

2月下旬に入り、最高会議では、キエフばかりでなく各地で行われた公共家賃・公共料金値上げの正当性をめぐって与野党の乱戦が行われ、野党が会議場地下の配電盤のある部屋にたてこもり、各議席でのスイッチによる投票を不可能にする、または与党が野党の妨害から議長席を守って包囲? するなどの派手なパフォーマンスが連日TVの画面をにぎわせました。

団体活動スペースの賃借料値上げ反対の陳情

チェルノブイリ原発職員の町プリピャチ市から移住してきた人たちの相互扶助市民団体、キエフ市デスニャンスキー地区の「ゼムリャキ(同郷人)」は、幼稚園の一角を、年間契約を更新しつつ賃借しているのですが、そのスペースの賃借料は今年からひと月1平方メートルあたり2グリヴナから40グリヴナに値上げされ、公共料金と合わせると全部で5,500グリヴナ(1,100ドル)/月になるとのこと。

50平方メートル以上の面積を借りている場合は、この値上げ率になるんだそうです。これでは活動の存続が危ういということで、私は「ゼムリャキ」代表のKさんに依頼され、「ゼムリャキの存続に関心のある日本の市民団体複数の関係者」という資格で、Kさん、彼女の知人の国営ラジオのディレクターと一緒に、デスニャンスキー地区の区役所に陳情に行きました。

陳情に対するデスニャンスキー地区区役所の対応

 220日に、地区の副行政長に会った時は、
「地区議会が決めることなので、自分には何ともしがたい。自分自身チェルノブイリの事故処理作業者で、某市民団体で働いていたこともあり、被災者の苦労や市民団体の大変さはわかる。しかし、この地区は大きな企業がなく、市の補助でやりくりしている状態。社会保障というので特典をみだりに提供するのは本来は望ましくなく、もし賃金や年金が充分にあれば、誰もが平等に公共料金の支払いができるはず。いずれにせよ、いつまでも幼稚園の建屋に入っているのはよくない。幼稚園のそばに新しい集合住宅もできつつあり、完成のあかつきには若夫婦などが入居して、入園希望者が増え、より広いスペースが必要になるはず。近いうちに、地区内に低収入の家庭のための住宅を建設し、その
1階は店舗やオフィスなどにする。そこのスペースを購入してはどうか[昨今のキエフの不動産価格からすれば、はっきり言って非現実的な話ですが]」と、だんだん話のトーンが変わり、「自分も障害者の資格を取得しようと思えばできるのだが、まだ人のために働けるうちは働きたいと思って頑張っている。この事務所の窓から見えるあの空き地に、事故処理作業者のための記念碑を建てる予定だ」
と言われて話が終わりになりました。
失礼ながら、ほとんど一人芝居を鑑賞しているような気分でした。

デスニャンスキー地区は、チェルノブイリ事故当時ちょうど完成していた新興集合住宅群にまとめて移住者を住まわせたところで、被災者がたしか35,000人以上はおり、すでにチェルノブイリ事故の記念碑はあるはずです。新たに記念碑を建てる予算があるのなら、もう少し別の使い方をしてもいいのではないかと思いましたが。

待たれる人間的な判断

 21日、地区議会付属委員会(「私営化と公共サーヴィスに関する委員会」というのだったと思いますが)に行った折には、始まるまで廊下で30分以上待たされましたが、みな30代くらいの議員5名の反応はそれなりによく、「外国の支援を家賃や公共料金に使いたくないというのもわかる。そちらのご意見を生かす方向で努力する」ということでした。27日の地区議会で審議されるそうです。なんとか人間的な判断をしてほしいものと思いますが。

政治的混乱の原因

 外相タラシュク氏は、内閣が外務省の予算を支給しないという兵糧攻め? の策を取るに至って、ついに事態収拾のためとして辞表を提出。大統領は副外相オグルィスコ氏を新外相に指名しましたが、最高会議での承認はまだです。

この間最高会議は、2度にわたる大統領の拒否権発動にもめげず、大統領の権限を縮小する「内閣に関する法律」を成立させ、同法は官報に掲載されましたが、大統領はこれを憲法違反とし、憲法裁判所に訴えています。

欧州評議会のウクライナ・モニタリング担当オブザーヴァー2名は、1月末の欧州評議会議員会議で「ウクライナ政府は、法の指導権と、行政の各水準における透明性を保障できていない」と指摘。

さらに「新内閣は、実業界の利益と政府の癒着を体現する官僚らにあふれており、国民は結局のところ何のために投票したのか理解できないでいる。

ユシェンコ大統領とヤヌコーヴィチ首相の間で続いている対立は、国が戦略的決定を下す妨げとなり、必要不可欠な改革のプロセスを滞らせている。

政治改革の枠そのものと、改革が不可逆なものであるのかどうかについての不明確さが、常に対立と混乱の原因となっており、この改革の当初から主要な問題点だったのは『権力の均衡』でなく、『権力のコントロール』であった」といったあからさまな表現の報告があったと報道されています。まあ、はっきり言ってしまえば、そういうことになるんじゃないでしょうか。

ウクライナのEU加入をめぐる問題点

それはともあれ、EU諸国国民を対象として最近行われた世論調査によれば、ウクライナがEU加入に必要な条件をすべて満たした場合、その加入に賛成と答えた人が5割を超え、反対は34%。
 ウクライナでは同じ質問に対して賛成55%、反対25%だった由。

しかし欧州評議会では、上記の指摘のほか、ウクライナでのエイズ感染の危機的状況、司法システムの腐敗、外国人排斥の傾向(1月、外国人選手をウクライナのサッカーチームから追放しろという趣旨の、一部サッカーファンの集会がキエフでありました)、偏向のない公共TV放送の欠如、ゴンガゼ記者暗殺事件が今なお解決に至っていないこと、などが問題とされており、ウクライナのEU加入は当面棚上げというのがおおかたの見方です。

ジトーミル訪問の主目的

 さて、最初に書きました「チェルノブイリ救援・中部」のジトーミル訪問の主目的は、同州北部のナロジチ地区でナタネを栽培し、ナタネが放射性物質を吸着しやすいという性質を利用して土壌浄化を図り、同時にナタネ油をバイオディーゼル燃料の原料として使用、残ったバイオマスを発酵させバイオガスを得る……というプロジェクトについての打ち合わせでした。

話し合いの結果、ジトーミル市にある国立農業・生態学大学と、ナロジチ地区行政の協力を得て、実験的栽培(春播きと秋播きを合わせて4ha)はなんとか今年から実現されそうです。

栽培予定地は事故後ずっと休耕地となっていた畑で、汚染地図では1平方kmあたり7キュリーとなっていたところだそうですが、土地の選定にあたって上記大学の教授がサンプルを採取して調べたところ、1平方kmあたり11ないし16キュリーとなり、採取時に彼がはいていたジーンズをジトーミルに戻ってから測定すると、ガンマ線の値が通常より3割は上がっていたということでした。しかしそれはまだ雪が降る前の話で、「救援・中部」代表団が予定地を視察に行ったその日には、土地は一面雪におおわれて白くなっていました。

ナタネの活用の問題点と課題

ナタネによる放射性物質吸着の実験は、これまで各国で行われておりデータもあるそうですが、汚染現地で大きな規模で行われたものは未だないということです。

ナタネそのものをバイオ燃料の原料として栽培することは、近年ウクライナでも盛んになりつつあり、ジトーミル州の他の地区でも先例がありますが、これはヨーロッパへの輸出向け契約栽培で、国内でのバイオディーゼル燃料の製造は、自家消費レヴェルのものにとどまっているようです。

しかし、ナロジチ地区に隣接するオヴルチ地区でも、バイオディーゼル燃料製造工場の計画があるそうで、今後どう発展していくのか、注目したいところです。

「救援・中部」では、手始めに100ha規模のナタネ栽培に対応できる燃料製造装置提供を考えているという話でした。ただし、ナタネ油に放射性物質は含まれないものの、茎・葉・根に残るそれをどう処分するかという問題は残り、バイオマスとしてガス発生装置に入れ、体積を減らし、乾燥させて扱いやすくしたとしても、その後低レヴェル放射性廃棄物として安全に保管する必要が生じます。

これについては、すでに地区内に存在する放射性廃棄物処分場()、またはチェルノブイリ原発周辺30kmゾーン内の処分場に保管することが可能であろう、と地区行政長は言っていましたが。

実現化するバイオガス製造

 ちなみに数年前、ひょんなことで知り合ったジトーミル市の養鶉業者Kさんに、養鶉設備の導入について相談されたことがありました。

彼は当時、愛知県豊橋市の養鶉設備製造業者からパンフを取り寄せたものの、価格の点で問題があり、導入を見合わせていたのですが、ここ数年ウズラ卵の需要が急速に伸び、生産拡張の必要に迫られて、ウクライナの業者と設備開発の交渉をしているそうです。

彼の農場ではバイオガス製造装置がすでに設置されており、最近ドイツでのバイオガスセミナーにも参加してきたということでした。それじゃまた。(2007年226)


                                       竹内高明(キエフ在住)