No.21

初めての「日本語能力試験」

 キエフでは
123日に、この冬初めてのまとまった雪が降り、けっこう積もりましたが、気温は零下12℃くらい、その後すぐにプラスの気温になって、5日にはかなりとけてしまいました。
 私はチェルノブイリ関連の仕事と、大学の日本語講師の仕事で忙しく、
124日にはウクライナで初めて正式の「日本語能力試験」が行われ、その監督をして日当をもらったりしました。
 この試験は
1級から4級まで、地方から受験に来た人も含め、合わせて三百数十人が受けたということで、私が監督をしたのは3級の試験が行われた教室の一つでした。3日には監督員のための説明会と試験会場の準備があり、おかげで、週末の雪景色をのんびり楽しむというわけにはいきませんでした。
 それはともあれ、このところのウクライナの主なニュースを箇条書きで掲げます。


1)中断状態の政府予算審議−チェルノブイリ被災者の社会保障をめぐって

 収入965億グリヴナ、支出1,073億グリヴナの赤字予算の政府案は、現在最高会議での審議が中断状態になっています。

 ウクライナチェルノブイリ同盟代表の批判

 これに前首相ティモシェンコ氏・現財務大臣ピンゼニク氏が約束していたチェルノブイリ被災者の年金値上げが見込まれていないことを、ウクライナチェルノブイリ同盟のユーリイ・アンドレーエフ代表は批判。
 例年この時期になると行われる同団体の最高会議前ピケが今年も報道されました。

 労働・社会政策省の対応

 労働・社会政策省特恵・補償課課長ヴァシコ氏によると、チェルノブイリ被災者の社会保障のための支出は「すでに長きにわたって安定しており、彼らのために毎年約
10億グリヴナが支払われている。チェルノブイリ被災者は、特典を与えられている人たちの中でも最も恵まれた部類に属している」とのこと。

 非現実的な社会保障額

 もっとも同氏は、被災者の社会保障が法律の文面通りに行われれば、年間の支出が
60億グリヴナ以上になるだろうことを認めており、「その上法律に定められた住宅や自動車の保障まで行えば、必要な金額は300億グリヴナを下らないだろうが、それは国の予算規模から考えて非現実的」という結論を下しています。
 少なからぬ「偽チェルノブイリ被災者」の存在と、その真偽の判定が今や困難であることも指摘されていますが、「真の」被災者たちが、彼らの社会保障に関する法律が正しく施行されていないことを常々口にしているのも、むべなるかな、です。

2)「オレンジ革命1周年」

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22日、キエフの独立広場では「オレンジ革命1周年」の記念集会? が開かれ、革命を支持したミュージシャンらのコンサート、そして革命の立役者となった政治家たちのスピーチがあり、雪のちらつく中、オレンジ色の旗を持った主に若い人たちが再び広場を埋め尽くしました。
 
 昂揚感すでにうすれ
 

 私は夕刻にちらと様子を見ただけですが、
1年前のあのポジティヴな昂揚感と緊張はすでに感じられず、流れていたのはどちらかといえば「あの感動をもう一度」といった同窓会的な雰囲気でした。
 集会の
TV中継を観た知人によれば、「ユーリヤ・ティモシェンコ・ブロック」の同志に抱え上げられてステージに登場したティモシェンコ氏が盛んに喝采を浴び、その後で集会のトリを務めたユシェンコ大統領は、「ユーリャ! ユーリャ!」のコールがなかなかやまないのに憮然とした表情だったそうです。

 選挙運動開始
 

 来年
3月の最高会議選に向けて、1126日から正式に選挙運動が始まりましたが、ユシェンコ氏の率いる与党連合「我らのウクライナ」と「ティモシェンコ・ブロック」が「オレンジ革命」を支持した人々の票を奪い合うのはほぼ間違いないとみられています。

3)革命後1年の新政権評価 
 
 革命後
1年の新政権評価が各種マスコミで行われました。

 ユシェンコ・ティモシェンコ両氏の信頼度低下

 
ある世論調査によれば、「ユシェンコ氏を信頼する」の回答が2月時点で62.9%だったのに対し、10月には36.4%、逆に同氏を信頼しないとの回答は2月で23.5%、10月には47.9%。
 ティモシェンコ氏については、「信頼する」の回答が
2月−50.4%、10月−26.2%、「信頼しない」がそれぞれ34.1%と54.4%。
 一方ヤヌコーヴィチ氏は、「信頼する」が
2月に28.9%、10月に31%で、「信頼しない」はそれぞれ53.2%と49.2%、ほとんど変化がありません。
 大統領選直後の、新政権に対する国民の期待が大きすぎたこと、新政権の構成員となった政治家たちに、時勢の要求と与えられた課題の大きさに見合うだけの器量がなかったことは、まともなマスコミのほぼ共通の認識のようです。

 国民の権利意識の高まり

 それと同時に指摘されているのは、国民の権利意識の高まりと「市民社会」の活性化であり、「革命」の成果としてこれが最も評価すべきものだという意見がありますが、私もそれにくみしたいと思います。
 ただ、「市民社会」というべきものがどの程度育っているのかと言われれは、あまり自信がないと答えざるを得ませんが
……
 「市民のイニシアティヴ・キエフ」と称する団体が、このところ街頭でパンフ類を配布しており、私が見たのは「役人に物申すためのマニュアル」といったなかなか実践的なもので、「今すぐここで官僚を採点しよう!」というテントなどもできています。この運動の財源はどこなのか詳らかではありませんが、最高会議選と同日に行われる予定の地方議会選、キエフ市長選におそらく無関係ではないでしょう。

4)「ガスプロム社」の値上げをめぐって
 
 ロシアの「ガスプロム」社は、「ウクライナを経由してヨーロッパにガスを供給しているパイプラインのトランジット料を、1,000立方メートルあたり1.09ドルから国際価格の2.42.7ドルに引き上げる。
 一方でウクライナに売却するガスの価格を
1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルに変更、しかもバーター貿易は不可とする」という申し入れをしており、ロシアに10億ドル相当の兵器を提供することで埋め合わせようと提案しているウクライナの「ネフトガス」社との交渉が膠着状態に陥っています。
 この、
3倍以上のガス価格高騰が実現すれば、庶民のふところのみならずウクライナの来年度予算に対しても巨大な打撃となることは必至であるため、交渉の行方が注目されています。

5)「大飢饉の犠牲者を追悼する日」の行事

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26日には「大飢饉の犠牲者を追悼する日」の行事が催され、聖ソフィア寺院とミハイル修道院をつなぐ広場では、夕刻からいちめんに火をともしたろうそくが供えられました。
 
 ソ連政権によるウクライナ民族のジェノサイド

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世紀のウクライナは、192123年、193233年、194647年と3度にわたる飢饉を経験しており、特にソヴィエト政権による集団農場化とそれへの抵抗に不作・穀物強制供出が重なった193233年の大飢饉では、少なくとも数百万人が犠牲となったとされており、週刊誌『通信員』123日号では「700万人ないし1,000万人」となっています。
 ユシェンコ大統領は、この巨大な犠牲を、ソ連政権によるウクライナ民族のジェノサイドであると認めることを国際社会に呼びかけており、
2年前には、国連加盟の25ヶ国が、この大飢饉を「全体主義体制の政策遂行の結果」と認める共同声明を発表しています。日本がこの25ヶ国に含まれているかどうかは今確認できません。

 ロシア政府の見方

 ロシア政府の見方はもちろんこれとは異なり、この飢饉は「
(当時のソ連の)すべての民族にとっての悲劇」であり、ウクライナ人に対して意図的にしむけられたものではない、としています。
 この悲惨な事実はソ連時代の公式の歴史では黙殺されていましたが、ミュンヒェンで
1994年に出たA.カッペラー『ウクライナ小史』によれば、ソ連の公式の国勢調査の数字で見ても、1926年から1939年の間にソ連全土でのウクライナ人の数は300万人(10)減少しており、逆にソ連全体の人口は約15%増加、ロシア人人口は27%増加しているそうです。
 ウラス・サムチュクが
1933年にプラハで書いた小説『マリヤ』は、この事件を最初に扱ったウクライナ文学の作品として著名ですが、私は未読です。

6)クリミアで鳥インフルエンザ

 クリミアでは
122日、H5型鳥インフルエンザウイルスの発見が公表され、125日現在、5つの村だけで3,000羽以上の家禽が処分されました。
 これらの村では、非常事態省の特殊部隊と保健所職員らが検疫措置をとり、全世帯の検査を行っています。


)エイズ感染者増加と国家収入の減少

121日の「国際エイズの日」に先立って新聞に発表されたデータによれば、ウクライナで登録されているHIVウイルス感染者の80(65,000)20歳以上40歳未満。このもってまわった言い方から判断すれば、登録されている感染者の総数は81,000人余りということになりますが、もちろん未発見の感染者が数多くいるだろうことを想定しなければならないでしょう。

労働・社会政策省の試算によれば、
2014年には感染者数は47万人に達し、そのため国内総生産は0.68%、国家収入は53,799万グリヴナそれぞれ減少することになる可能性があるのだそうです。さらに悲観的な試算によれば、同じ2014年に感染者数は82万人、そのための国家収入の減少は93,300万グリヴナ減少し、国家支出は26億グリヴナ増加する見込みだとのこと。

最近非公式にウクライナを訪問した、アメリカの元大統領クリントン氏は、彼が代表を務める基金がウクライナのエイズ対策に資金援助をするという協定に調印した由。
 (2005年127)

                                       竹内高明(キエフ在住)