No.4





大統領選直前の状況

野党側最有力候補ユシェンコ氏の「毒殺疑惑」に関しては、最
高検察庁の調査でも「証拠がない」ということになりました。

ユシェンコ氏の選挙参謀であるジンチェンコ氏(注1)は
最高会議内で組織された調査委員会の同様の結論に対して
「生物兵器使用」説を出していましたが、この説は、与党側から
の揶揄または抗議
(「ウクライナは生物兵器製造禁止協定を
批准している!」
)の対象となったのみでした。

(注1)大統領寄りの統一社会民主党幹部から野党に「寝返っ
た」と非難を受けている人物


1023日午後11時頃、在ロシアウクライナ国民のためロシア
国内での投票所数を増やすという提案が議論されているさなか、
中央選挙委員会前で、同提案は投票数ごまかしの方策と抗議し
集合していたユシェンコ氏支持者たちを「ビン、棍棒、スプレ
ー缶」などで暴漢たちが襲撃、
8名が怪我を負うという事態が発生。

さらに、その現場に駆けつけた「我らのウクライナ」所属の議員
たちと与党議員及び警備員たちの間で乱闘が起こり、そのようす
は政府系
TV局のニュースで詳細に報道されました。

ナチスドイツからウクライナ解放60周年記念式典
プーチン大統領、ヤヌコーヴィチ政権を支持

1028日にはウクライナのナチス軍からの解放60周年を記念して
軍のパレードが行われました。例年なら
116日に行われる祝賀
行事が、今年はなぜかこの日付になったのは、選挙がらみで起
こり得る「不穏事態」に対する牽制という説がちまたには流れて
います。

またこの記念式典に国賓として参列したロシアのプーチン大統領は、
26日ウクライナの国営TV局の生番組で視聴者の質問に答え、ヤヌ
コーヴィチ政権の業績に肯定的な評価を下しました。

選挙報道に抗議のTV職員ら、辞職

1028日、5つのTV局の職員が公正な選挙報道への妨害に抗議を
表明、
29日にはこの声明に同調し、あわせて10の全国TV局と8
TV局の職員、計160名以上が署名。政府系TV局「11」のニュー
ス担当職員
7名は、検閲に対する抗議の意思表示として辞職しました。

「広島国際平和ミッション」代表団 ウクライナ訪問
核ミサイル基地跡を見学

10
19日から27日にかけ、広島国際文化財団主催の「広島国際平和
ミッション」代表団
6名がウクライナを訪れ(ロシア訪問後、ボスニ
ア訪問前に
)、私はそのお世話をさせていただきました。

セヴァストーポリ近郊のバラクラヴァでは、かつての潜水艦修理地
下ドック兼核戦争用シェルター
(民間人1,000人収容想定)が現在博物
館となっているのを見学しました。

またニコラエフスク州ペルヴォマイスクでは、やはり博物館となった
かつての戦略核ミサイル基地で、地下司令部
(地下30mに達する12
層の施設)の一部や一つだけ残されたミサイル発射サイロを見ました。

こういう壮大な設備がかつては実際に最高の国家機密の対象として用
いられていたことを考えると、巨大な溜息をつきたくなる気がします。

同様の設備が今なおアメリカやロシアに数多く存在し、ミサイルの発
射のため訓練を受けた軍人たちが現在も勤務しているという事実は、
やはり常人の想像力を超えるものです。

ミッション団長の森下さんは、
14歳の時広島の爆心地から1.5kmの中学
校で被爆され、ウクライナ滞在中に
74歳の誕生日を迎えられましたが、
かつての核ミサイル基地をご自分の目でごらんになった被爆者は彼が
初めてではないでしょうか。

 ウクライナが核を放棄したいきさつには、アメリカとロシアの政治的
思惑・駆引きが大きく影響しているほか、核兵器の保有・維持自体に巨
額の費用を必要とするという事実があり、ミッションが会った物理学者
や政治家の幾人かは、核兵器の保有を「ぜいたく
(дорогое удо‐
вольствие)
」と表現していました。

しかし、核・原子力に関わった学者や軍人には、心なしか非常なプライ
ドが感じられ、それは「国」とその「機密」に根ざしたものであるような気
がします。

人間によってつくられた非常におごそかなものが、同時に最も馬鹿げた
ものでもあり得るということは、いつの時代でも同じなのでしょうが、
国と科学と経済と産業が結びついて発展した
20世紀に、その現象が極限
に達したのかもしれません。

ウクライナ非核化支援に日本政府1900万ドル拠出

 やはりミッションが訪問した日本大使館でもらった資料によれば、日本
政府はウクライナに対しこれまでに
1,900万米ドルの「非核化支援」を行っ
ており、その内容は
次の通りだそうです。

@核物質管理制度確立支援
 非核兵器国として核不拡散条約に加入したウクライナの、加盟国として
の義務履行
(IAEAの保障措置[査察]受け入れ)に協力するため、核物質計量
管理システム、核物質防護システム等を供与。

A核兵器廃棄要員のための医療機材供与
 核兵器廃棄の過程で発生する放射能汚染や有毒なミサイル燃料の漏出等
による被害を受けた軍の要員の検査・治療のために医療機材、医薬品、各
種分析機材用試薬等を供与。

 なお、@はハリコフの物理技術研究所など、Aはキエフの国防省軍中央
病院に提供されている由。


                  2004.10.30 (竹内高明・在キエフ)