「ロシア語の使い手たちにロシア・ロマンスを広く知らしめたい!」という某役員 −無論、この文章を書いているワタクシのこと − のむちゃくちゃな願望に端を発し、6ヵ月以上にもわたる試行錯誤の結果、ついに11月最後の土曜日、秋色濃い公園を望む通訳協会新事務所にて、わが協会としては異色の学習会が開催されました。講師を引き受けてくださったのは、早稲田大学教授、マヤコフスキー学院代表、ロシア音楽研究家、そして自らもプロはだしの歌い手でいらっしゃる伊東一郎先生です。現在日本で望みうる最高の講師をお迎えしての今回のイヴェント、その第1部では、伊東先生がロマンスを、その起源から説き起こし、発達、分類、変遷、と、さまざまな名録音のご紹介をまじえて縦横に語ってくださいました。さすが講義のプロ、とてもわかりやすいご説明で、一同、大納得! まとまった日本語文献のないこの分野、限りなく貴重な講演だったと思います。

休憩をはさんだ第2部が、いよいよ伊東先生自らの歌による代表的なロマンスの紹介。曲目は次の5曲 − ≪Утро туманное≫ (музыка В.Абаза, слова И.Тургенева), Зимний вечер≫ (М.Яковлева/А.Пушкина), ≪Я Вас любил...≫
(А.Даргомыжского/А.Пушкина), ≪Певец≫ (А.Рубинштейна/
А.Пушкина), ≪Не пробуждай воспоминаний...≫ (П.Булахова/N.N.)

いやあ、驚きましたねぇー、うるおいとぬくもり、そして男性的な高貴さに満ちたなんとも魅力的な音色のお声ではありませんか! そしてロシア語のディクションの鮮やかなこと! これがマイクなしで「歌われた」ものであること、また、ネィティヴのシンガーではないことを忘れそうでした。翻って忘れてはならないのは、ギター伴奏を受け持ってくださったグリゴーリー・アプーフチンさん。テレビ講座で若きパパを演じられた姿を覚えていらっしゃる方も多いのでは? 直前にお願いし、しかも提供した楽譜はギターならぬピアノ譜のみ。リハーサルの時間さえほとんどない、という悪条件下で、伊東先生とともに立派なアンサンブルを繰り広げてくださいました。

(余談ですが、先生は、一聴したところハイ・バリトン的な音色ながら、若いころ合唱団のトップテノールをつとめたことがあるほど高音もお得意なのだそうです。うーん、世界は碩学のプロフェッサーを得た代わりに、偉大なオペラ歌手 − それも現在、世界的に払底しているスピントないしドラマティコ、あるいはロブストと言われる種類の大テノール − を失ったかも?!)

この催しに参加できなかった皆様、すみませーん、さまざまな理由により今次学習会のテープ販売はありません。その代わり、というわけではありませんが、第1部で紹介された録音の一覧を掲げておきます(一部、曲の題名が日本語のみだったり、演奏者が挙げてなかったりしますがご容赦くださいませ)。

1.         Козловский作曲のフランス語の歌詞による“романс”

2.         ≪Тщетно я скрываю сердца скорби люты≫ (Теплов作曲の
ロシア語の歌詞による
“песня”)

3.  ≪Я помню чудное мгновение≫  ― музыка Глинки, слова
Пушкина, исполнитель: Николай Гедда (
T)

3.         ≪Песня≫  ― музыка Глинки, слова Дельвига, исполни-
тель: Борис Христов (
Bs)

4.         私が戸口に出てきたら ― музыка Алябьева, слова Дельвига

5.         みなしご   музыка и слова Мусоргского

1.6. Ты помнишь, Мария?≫ ― музыка Дягилева, слова А. К. Толстого, исполнитель: 浦野智行(Urano Tomoyuki, Br「トルストイのワルツ」と題されたCDより、下記URL参照

http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=734098& GOODS_SORT_CD=102

7.         Соловей и роза  музыка Римского-Корсакого,
слова
Кольцова, исполнитель: Ольга Бородина (Ms)  (ピアニッシモの3C音が聴けました!)

8.         ≪Не пой, красавица, при мне≫ ― музыка Рахманинова,
слова Пушкина, исполнитель: Николай Гедда (
T)

9.         ≪Старый вальс: Я помню вальса звук прелестный...≫   музыка и слова Листова

岡本祥子
歌おうロマンス!
ロシアの歌・特別講演会