関西支部第23回公開講座(2010/2/7)の報告
「会議通訳という仕事」
去る2月7日、多忙を極める柴田友子副会長を東京からお招きして会議通訳の仕事についてお話し頂きました。参加者は29名で、内訳は会員と非会員(内学生6名)が半々でした。
会議通訳とはどういう仕事なのか、どんな分野があるか、最近の傾向、通訳としての心得など様々なお話がありましたが、特に印象に残ったのは勉強のしかたでした。
冒頭に自分はマクシマリストである、と自己紹介された通り、「片思いの男に捧げ尽くすような」と表現された研鑽の日々がお話の中で次第に明らかになっていくにつれ、参加者の間からはため息がもれていたように思います。
会議通訳は本当はバイリンガルのような言葉に困らない人がやるべき、帰国子女でもなく長期留学の経験もない純国産の通訳がそれをするためには「ノンネイティブの税金」を払わないといけない、ずっと払ってきたし、今も払い続けているとおっしゃる。その税金の中身は・・
・ロシア語のスピードアップのためにストップウォッチを持って同じ文章を何度も読む
・できるだけたくさん声に出してしゃべる(家でも猫にロシア語で話しかける!)
・テレビを見ながら(例えば国会中継)ロシア語に訳す練習
・多言語会議では英語の知識が必須なので英語通訳入門科で勉強
・月に4回2時間のプライベートレッスンを10年以上続けている
・一ヶ月に10枚の作文を書いて見てもらっている、等々
会議準備のリサーチと並行して、ロシア語そのものも「警察犬のように毎日訓練」しておられるとのこと。仕事中以外はロシア語から離れたい私には耳が痛いお話でした。そんなに勉強し続けないといけないのかと圧倒された人もいるのではないかと思います。通訳は永遠に発展途上ということを肝に命じて自分も努力せねばという気になりました。
通訳の仕事のやりかたについて実演を交えて実践的なお話をしていただきました。メモの取り方では、冒頭の支部代表の挨拶をメモから再現され、日本語のままとはいえ一時間以上経っているのに完璧な再現ぶりに感嘆の声が上がりました。方言を直すより滑舌をよくすることの方が大事、軽やかで耳に心地よい話し方を心がけるという当たり前ながら忘れがちなアドバイスもありました。参加者の感想にもありましたが、柴田さんの話し方は大声ではないのによく通り、落ち着いていて聞き手に安心感を与えます。勉強家の柴田さんのことだから、ひょっとしたらアナウンサー講座などに通われたのかなと思いました。
サイトラについてのお話の中で、ロシア語を聞き、ロシア語を読む、日本語を出すという3つのことを同時にはできない、だったらどうやるかというテクニックをテキストを使って具体的に説明して下さいました。原稿をベタに訳して安心していた時に飛ばしたり順番を変えられたりすると分からなくなってしまう、どこかにあったという気持が災いして探すか自力で訳すかというジレンマに陥って自滅する、と言われ、よくこのパターンで墓穴を掘る私は、柴田さんでも難しいんだとほっとしてしまいました。
最後に、通訳になりたいと思う人はとにかくたくさん読むのがいいというお勧めがありました。ボキャブラリーを増やすには読むしかない、聞こえないのは知らないからだというのは常日頃感じていることです。覚えても覚えても忘れてしまうけれど、たくさん取り込んでずっと貯めていくと少しは残る、コーヒーの澱のように、と言われたのも印象的でした。
会議通訳の資質として、探究心、リサーチ力、貪欲さ等を挙げておられましたが、一番必要な資質は勤勉であることではないかと思いました。謙遜しておっしゃらなかったのでしょうけど。いつぞや会報の自己紹介に好きな仕事として「原稿のない同時通訳。どんなにがんばってもうまくできないので心を魅かれる」と書いておられました。この飽くなきチャレンジ精神も大事な資質だと思います。純国産でも努力次第で一流の会議通訳になれるということを身を持って体現している柴田さんのお話を聞いて、これから通訳を目指す若い方たちだけでなく現役通訳も大いに刺激を受けた一日でした。
参加者のアンケートから
・会議通訳というと帰国子女など一部の人しかできない仕事だと思っていましたが少しその考えが変わりました。
・英語通訳の本などで言われているのとは違う独自のメソッドなどを紹介頂いて大変興味深かった。
・どのような仕事につくにしろ、柴田さんのように常に努力する姿勢でいたいと強く思い、学習へのモチベーションもすごく上がりました!
・自分のロシア語学習においてヒントとなるコツをいくつか知れたので早速実行したい。
・努力もせずにできないと言ってる自分が恥ずかしくなりました・・
・やっぱり「勉強!勉強!勉強!」。勉強し続けること!
・淀みない語り口と、やさしい落ちついた声音に魅了されました。
・ロシア語に魅せられた努力の人の到達点ですね。でもすごいのはまだ上を目指
しておられる。
・25歳のときに聞いていれば・・・・
なお、今回は
熊見直子